魚類の聴覚

水中では,音は縦波の圧縮波として音圧を,近距離では水粒子の動きとして感知される. 魚類も同様に聴覚があり,内耳を用いて圧縮波を感知する一方で,近距離の水粒子の動きを側線で感知する. 魚の内耳は,一方で蝸牛がない.三半規管の下に配置されている3つの嚢の中に有毛細胞が存在し, それぞれが耳石と連携している. 音によって魚の体が振動するが,耳石は魚の本体と比べて比重が3倍大きいので,その振動から位相が遅れる. このずれが有毛細胞全体を倒すことになり,チャネルが開く. これとは別に、鰾を使って音を感知できる魚類もいる. つまり,鰾が内耳とつながっていて,音圧によってこの鰾が振動する. このように,鰾を使うと音の圧力変化(スカラー量)をよく感知することができる. つまり,遠距離からの音圧を感知することができる 一方で,鰾が内耳と連携していない魚類は,前述のとおりベクトル成分しか感知することができない. つまり近距離の粒子運動しか感知することができない.

人間など陸上動物が鼓膜を使うことができる理由は,空気よりも音響インピーダンスが高い 肉体をもつためである. この肉体に固定された鼓膜の振動として,音をスムーズに感知することができる. 一方で,魚は水と音響インピーダンスの差がほとんどない. そこで,耳石が使われることになる. 多くの魚の周波数感度は低く,おおむね 2 kHz 以下の周波数帯域である.

音源定位

魚は音源の位置が学習できなかったという報告(ハヤ)がある一方で, 威嚇音を使った追い込み漁や,求愛のために魚が音を発する例もある. 実際には水平方向,垂直方向に識別できることが知られている.

人間は両耳の強度差や時間差を使って音源定位をする一方で, 魚類はわからないことが多い. 人間は頭部が貫通する音が減衰することから強度差を求めることができるが, 魚類は周りの水と同じように体組織が音を通過するため,強度差を計測することができない. また,水中の音速も空気中の 5 倍程度であり魚類の左右の耳の距離も考慮すると 時間差を考えることも難しい. こういったことから,現在では鰾を用いて感知される音圧の位相差を使って音源定位をすることができる といわれている.

発音する魚

発音する魚が存在する.例えば繁殖期や,幼魚が生息場所に戻るため, 逃走行動など様々な手段がある. 加えて,コーラスのような現象がみられる魚類も存在する. ただ,ごく限られたグループだけが(10%)鳴くらしい. この「鳴く」の定義は,鳴くことのための器官が存在するということとされている.

この発音方式は主に二つ存在する. 一つは発音筋の振動音である.発音筋の振動が鰾で共鳴することで発音される.ピラニアとか. もう一つは骨の摩擦振動である.シロホンのように,くぼみの付いた骨がこすられることで音が発せられる.

例えばスズメダイを例に挙げると, 繁殖行動の際は,営巣のときに音を出す.メス用の産卵場所の準備が整ったことを知らせる. また,攻撃行動の差異にも音を出す.卵を食べる捕食者を見つけたときに追い返すための音である. また,求愛の差異にも音を出す.オスはループ状の遊泳とジグザグ遊泳によってメスを誘引するが, メスとのつがいが見つかって,巣までひきつれる際にオスは発音をし続ける.

一方で,配偶者選択にどのように使われているかはまだ研究されている. 例えばカエルは広告音として音を出し,自分の繁殖モチベーションを伝えるとともに繁殖可能なメスを 誘引することができるが,スズメダイの繁殖音も同様に遠くまで遠く伝わることが知られている. しかし,どのような要因でつがいの選択をしているかということは知られていない. 例えば体の大きなオスは体の強さからメスが引き寄せられる要因の一つとして上げられる. 体の大きさを判別する特徴の一つは,例えば周波数特性や強度,パルス音の持続時間などである. また,これ以外にも体の健康状態などが指標に上げられるという説もある.

側線器官

側線は,ごく小さな穴がならんだ点線が並んだようになっていて,この数は魚によって変化する. これは内耳の有毛細胞とよく似た仕組みを持っていて,感覚毛にある 刺激受容体が,水の動きに反応してその電位を変化させる. これが感覚神経によって中枢に伝達される. この側線器官は単に音だけでなく,水流を感知するためにも使われている. 魚は上流に向かって体を保持する特性があるが,その際に水流を感知する必要がある. この水流は,とくに流速に勾配がある際に有効に感知できることが知られている. これ以外にも,洞窟魚(盲目な魚類)は側線感覚を使って活動するが, 例えば壁に近づくと,水圧・水流が強くなるため,その勾配を側線器官によって感知できるらしい. 活動以外には採餌活動に使われる.餌の対象が近くに来ると水流が変化するので,見つけることができる. 餌によって水流の変化が違うのか気になる. 採餌でなくても,群遊泳に使われるという傾向がある.しかし,群遊泳はどちらかというと 視覚情報を使っていて,側線器官はどちらかというと補助的な役割であることが報告されている.