はっぴいえんどのラストアルバム. 解散が決まってからロサンゼルスで収録された作品で,その影響かこれまでのアルバムと比較して西海岸のカラッとした印象をうける. 松本は解散に賛成していなかったらしく,今回のアルバムでは鈴木茂以外に歌詞を提供することを断ったという. そうとうギクシャクしているはずだし,本アルバムのアートワークも本来は4人の写真を撮るはずだったがそれすらできないほど精神状態が安定していなかったという. かと言ってクオリティが低いわけではなく,素敵で聞きやすい曲が多い. でも当時の写真とか見てもそんなに仲悪そうな感じはしないけどどうだったんだろうな.

松本が歌詞を提供しなかったのは必ずしも悪いことだけではなくて, 細野の相合傘とか大瀧の田舎道とかこれからの彼らのソロワークの布石みたいになっているような気もする(大瀧はこの時点ですでにソロデビューしていたが...)

あとやっぱり特筆すべきは鈴木の作品が多いことだと思う. 前作では一曲しか提供していなかった鈴木が今回は3曲も提供している.

はっぴいえんどが続いてたらどうなってたんだろうな

1. 風来坊

作詞作曲は細野晴臣

風来坊はどこからともなくあらわれて去っていく人のこと(wikipedia). 松本の歌詞と区別するために言葉遊びを多めにしたらしい...

バックのホルンがゆったりしていて印象的な一方,イントロのベース入りがすごくかっこいい

2. 氷雨月のスケッチ

作詞は松本隆,作曲は鈴木茂

これ,めちゃくちゃ好きです. サビだけ大瀧が歌っていてなぜそこを譲ってしまったのか...といつも思う. 小坂忠もカバーしてるね

風来坊で漂っていたふわふわして暖かい空気がイントロのギターで一気に冷たくなる. 冷たい雨と街の情景を濁ったギターが構成してくれるように思う

雨のむこうに街が煙って

イントロの雰囲気も相まってここはモノクロな風景が想起される.

赤や黄のパラソル涙に濡れて 12色の色鉛筆でスケッチされたお前の顔

全然カラフルな感じになってきた
赤や黄のパラソルってなんだ?って感じだが車のランプとか店の明かりとかじゃないかな
そういう明かりが顔に当たってるねっていうことだと思ってる. 全然違うかも

ねえ もうやめようよ こんな淋しい話

別れ話だったんですかね

3. 明日あたりはきっと春

作詞は松本隆,作曲は鈴木茂

これ,最高です
めちゃめちゃカラッとしてて風街ろまんとのギャップを感じる. 「春よ来い」とか言ってた時期とは全く違う雰囲気があります. ラララララ~~~~

最初聴いたとき大瀧が バカラックの Alfie の盗作じゃないかと喧嘩をふっかけたらしい. 演奏中も奏者に「Alfie に似てない?」って聞いたらしい. その喧嘩を細野は「茂はジミヘンしか聴いてないからバカラックなんか知らないよ」って言って止めたらしい. 大瀧も細野も友達にはなりたくない

4. 無風状態

作詞作曲は細野晴臣

HOSONO HOUSE に通じるものを感じる. 細野のベースが常に動いていてリズムとメロディーを同時に担当しているようにみえる. 特にドラムやアコギに動きが少なく,後ろに引っ込んでいることも影響していると思う.

歌詞は a solty dog からの引用らしい

無風状態はまあおそらく風がない状態の船のことを指していて, この時期のはっぴいえんどは全員でどこかに向かう,みたいな方向性ではなくて 一人一人が自分の音楽に向き合っていたという状況を見ているんだと思う. 壮大な音楽の大海にこの船で立ち向かえるのかという不安

船を降りる

まあ解散のことだと思います.

松本の物語があって心情を歌う創作寄りの歌詞とは違って 心情を歌った歌詞なので違いがあっておもしろい

5. さよなら通り3番地

作詞は松本隆,作曲は鈴木茂

ファンキーで聴きやすい. この後に出るバンドワゴンをなんとなく想像させるギターの音作りな気がする. このアルバムの鈴木曲はどれも曲調が違っていて手札の多さを感じる.

6. 相合傘

作詞作曲は細野晴臣

カントリーで聴きやすい. HOSONO HOUSE あたりの曲風に似ていて,HOSONO HOUSE にもオフボーカルが出ている.

よくある恋愛歌だけど「相合傘」っていう単語がファンキーなリズムに合致していて楽しい. 歌詞に深い意味はないと思うけど

ほおずきクチュクチュ ほおずり クスクス

とか

路次はひっとり閑 俺はすっからかん

みたいな言葉遊びが細野らしいように感じて松本との違いを感じる

7. 田舎道

作詞作曲は大瀧詠一

LA に行った影響が一番表れている曲だと個人的に思います. 「夏なんです」みたいなジワジワした夏の雰囲気とはうってかわって,海沿いをドライブしているような細野のベースと鈴木のギターリフ,ビルペインのピアノがうまく助け合って最高の開放感を演出しているように思います.

マーマレイド色のおてんとさま

この歌詞から既にカラカラの夏が想起される

最近の曲は「友情」「努力」「勝利」「鬱」みたいな強いメッセージ性をもった曲が多くて,それも素敵だと思うけどこういうただ情景を説明するような歌詞もいいと思う

8. 外はいい天気

作詞作曲は大瀧詠一

すごく良い曲だと思います.

「水いろ」が3回出てくるけどこれは日差しか,コップの水に透けた日差しを指していると思います. ギターソロも雰囲気と合っていていい

9. さよならアメリカさよならニッポン

作詞ははっぴいえんど,作曲ははっぴいえんどと ヴァン・ダイク・パークス

はっぴいえんどがこの曲を模索していると急にヴァン・ダイク・パークスが「アレンジさせろ!」と言って入ってきたのは有名な話です. 松本がその場で歌詞を考えて細野と大瀧でメロディーを作り,ヴァンダイクがリズムを作ったまさに即興芸のような曲.

当時のはっぴいえんどを知らないし,日本の音楽とかアメリカの音楽の温度感を知らないからこの歌詞の真意を知ることはできないけど,はっぴいえんど特有の(?)あきらめ感を感じるように思います. 「はいからはくち」みたいな曲を出してるくらいだからやっぱり西洋文化,アメリカに対して一種の憧れや羨望みたいなもとがあったんだと思う一方で,アメリカで落胆するような出来事が続いたことが影響しているんだと思います. (アメリカの若手ミュージシャンに「俺らの仕事を奪うのか」って言われたこととか,歌詞を全く理解してもらえないこととか) すごく自分本位だしどうしようもないしどこへ行くん?って聞きたい