風街ろまんの感想をいまさら文章にしてみる

1. 抱きしめたい

作曲は大瀧詠一,作詞は松本隆で,ギターソロは鈴木茂. 颱風とはいから・びゅーちふる以外は松本が作詞を担当している.

主人公が「君」に会いに汽車に乗って出かける話. 「君」が恋人なのか宮沢賢治なのか(松本隆は宮沢賢治に作詞の影響をうけているが, それが最もあらわれているのがこの「抱きしめたい」だと語っていた)は分からないけど 誰かに会いに行っている.

「黝い」とか「曠地」とか「驛」とか漢字のこだわりが強い

ゴオゴオゴオと 雪の銀河をぼくは まっしぐらなんです

ここの浮遊感がとてもいい. 雪が吹雪いているような印象を受けるイコライジングとパン振りが印象深い.

とても素早く 飛び降りるので きみを燃やしてしまうかもしれません

は? という感じだが「きみ」へのアツい思いを感じるだけではなく 自分だけが先走っているような,「きみ」はそれほどアツい思いはないんじゃないか, というような印象をうける.

アウトロは以下

シュッシュッシュッ (ぽっぽぽーおお)

これは汽車の音もあるしビートルズの come together の shoot のオマージュでもあるらしい. へぇ~

2. 空色のクレヨン

作曲は大瀧詠一

のんびりした三拍子の曲.

空色のくれよんできみを描いたんです そっぽを向いた真昼の遊園地で

良い情景に思える.現実的には奇行だが...
「空色のくれよん」で描く女の子の情景をなんとなくイメージしてしまうのは松本の詞のせい

ぼくは きっと風邪をひいてるんです

「きみ」に照れているようすを比喩した表現. マジでいい詞だと思う.いつか言いたいことばランキング第3位です.

ソララロィ~ イロロロホォ~ アラララアァ~

ヨーデルだなあ
平穏な曲ではないと思うけど間抜けなヨーデルが急にかわいい

きみの眸(ひとみ)のなかで雲が急に雪崩れると

「きみ」が泣いたんだろうか
だから絵描きすぎなんだって

透き徹った冬に帰ってしまうんです

は?という感じだが1曲目の「抱きしめたい」を引用しているのかな?
だとすると1曲目の「きみ」は恋人なんだろうか

3. 風あつめて

作曲は細野晴臣
声と歌い方が良い. なくなっていく風景が悲しいね,っていう歌なんだから朴訥に,素朴に歌っているのがいい.

風をあつめてが作られたのは 1970 年ごろで,1964 年の東京オリンピックの影響を受けている. オリンピックに伴う都市開発で見慣れた風景が消えてしまって悲しいね,という曲. 一方で「絶望」とか「孤独」みたいなおおげさな雰囲気はあんまり感じられなくて, 「なんとなく不安」みたいな漠然とした負の感情の方が似合っていると思う. 永久に変わらないものは無いので都市開発そのものを批判することはできないけど そのときの感情とか情景をこうやって残しておくのは素敵なことだと思う(誰?).

街のはずれの
背のびした路次を 散歩してたら
汚点だらけの 靄ごしに
起きぬけの露面電車が
海を渡るのが 見えたんです

「路次」は帰り道とか散歩道の方で,「路地」ではない. 「背伸びした路次」は見慣れた道が背伸びしていると考えれば,都市開発で木が切り開かれたとか, 狭い道が広く舗装された,みたいな妄想ができる.

路面電車が海をわたることはないので廃棄のために船で運ばれてるとかなのか? でも廃棄ならその場でやるだろうしな

汚点だらけの靄は船の発煙かもしれないし車の排気ガスとかなのかもしれないけど 都市開発の末の影響,みたいなものは感じる

とても素敵な
昧爽どきを 通り抜けてたら
伽籃とした 防波堤ごしに
緋色の帆を掲げた都市が
碇泊してるのが 見えたんです

「とても素敵な」なので都市開発前なのかな,とか考えてもいる. 3番だけが都市開発後なんじゃないかとも思っているがよく分からない.

「昧爽どき」は明けがた. 人(物)がない防波堤ごしに緋色の帆をかかげた都市が碇泊している.

この都市を「都市」と読むか,「船」と読むか分からない.
「都市」なら,「昧爽どき」の赤色に染まった都市の情景を歌っている. 「緋色」がどういうイメージか分からないけど,自分はあんまりマイナスなイメージはないので 都市を歌った歌詞ではないんじゃないかと思っている(都市を悪く歌うはずだから) 「碇泊」は「錨」を下ろして港に停まることなので,「停泊」よりずうずうしさを感じる. 「船」と読むなら,朝明けの緋色に染まった船の情景を歌っている. 空いてる防波堤と相まって素敵な風景を歌っているように見える.

「とても素敵な」だから二番は開発前を歌った曲なんじゃないかなあ.

二番の後に短い間奏がある. これも相まって一番,二番と三番の断絶を感じる.

人気のない
朝の珈琲屋で
暇をつぶしてたら
ひび割れた 玻璃ごしに
摩天楼の衣擦れが
舗道をひたすのを見たんです

「摩天楼の衣擦れ」はビル風のこと. 「ひび割れた」も相まって開発後の残念な風景が伝わってくる.


歌っていることは風景の変化なので浅めなんだがそれに伴う感情とか時代背景が伴って 深いように思えるし,単純な歌だからこそ松本の歌詞が光っているように思う. 何を食ったら「摩天楼の衣擦れ」とか言えんの? もちろん細野の歌も素敵だけど松本の歌詞の方が曲としての印象は深い. その印象もあってか個人的に風街ろまんは松本のアルバムな感じがする. 「海辺の女の子」に影響をうけてただのフォーキーなサブカルアルバムだと思ってるやつの目薬に七味を入れる仕事なら任せてください.

4. 暗闇坂むささび変化

作曲は細野晴臣

暗闇坂は実際に存在するらしいね. これも東京の下町を懐かしがる雰囲気を感じる. 風をあつめての後に来るのもまたいい.

前半はムササビの妖怪をうたっているが

ももんがーっ
ももんがーっ
おー
ももんがーっ

とか

蝶々はひらひらひーら
蝙蝠(こうもり)ぱーたぱた

とか

黒ソフト

とか全体的にかわいい印象をうける.

三番で

思い出してみればお婆ぁちやんの
昔噺でお目にかかった以来

とあるのでムササビの妖怪は昔いたものだと分かる. そう考えれば怖い印象が薄いのも納得できる.

手を取り行くのも絵空事

結局ムササビの妖怪には会えていなかった. 都市開発の末,ムササビの妖怪に会う場所, ムササビの妖怪を空想できる場所が無くなってしまった.

5. はいからはくち

作曲は大瀧詠一

西洋かぶれを大々的に批判した曲. 「ハイカラ白痴」と「肺から吐く血」のダブルミーニングがある. そういう背景と噛みあう冒頭の不穏な和楽器パートが刺さる.

Hi, this is Bannnai Tarao.
High collar is beautiful.

冒頭は多羅尾伴内(大瀧の別名義)の語り.

間奏の鈴木のギターソロがかなりアツい. 松本のドラムもいい.

蜜紺色したひっぴーみたい

どう考えても自虐的な差別です. ありがとうございました.

「風をあつめて」,「暗闇坂むささび変化」とのんびりした曲が連続していたのに 急に思想強めの曲がでてくるので驚く. それくらい西洋かぶれが嫌い(というより日本文化を大事にしたい?)だったということだと思う. でもはっぴいえんど自体も Buffalo Springfield から影響を受けているわけなので 場合によってはブーメランになってしまうのでは?とも思ったりする. 一方で日本語ロック論争の観点で立つとその限りではなく, 妄信的に「ロックは英語詞」と主張している人への批判とも考えられる,と思ったりする.

6. はいから・びゅーちふる

作曲は大瀧詠一

大瀧がよくやるクッション的な歌だと思います.

7. 夏なんです

作曲は細野晴臣

このアルバムでは一番好き. 引くほど暑い日に公園とかちょっと木が生い茂ってる道とかを歩きながら聴くのがほんとうに好き(かぶれ)

イントロの D6 → D7(9, 13) → D7(9) が夏すぎる. カッとした夏,というよりはうだるような暑さを感じる.

しょっぱなの D7(9) → Cmaj7 からすごく不思議な浮遊感がある. サウンド面の夏らしさというかダルさが異常にノスタルジックで,経験したことのない過去の記憶が思い出される.

歌詞もいい.

鎮守の森は ふかみどり
舞い降りてきた 静けさが
古い茶屋の 店先に
誰かさんとぶらさがる

どういう人生を歩んだらこういう歌詞を書けるのか教えてほしい. 今から真似するから...

非常に好きな曲なんですがマジで言語化できない...

8. 花いちもんめ

作曲は鈴木茂

これもかなり好きな曲. イントロのギターがカッコいい. 二番が終わった後のギターソロもかっこいい.

歌詞は子供自体の原風景を思い出すような内容.

ぼくらが 電車通りを駆け抜けると
巻きおこる たつまきで街はぐらぐら

紙芝居屋が 店をたたんだあとの
狭い 路次裏はヒーローでいっぱい

無敵感にあふれる子供が走ってる様子とか,紙芝居が終わった後にヒーローのまねごとをする子供たち とかが想像される. サビのメロディとオルガンの突き進む感じも相まって「うぉぉぉ」って感じがするね(??)

最後の煙突は細野と大瀧のことらしい...
けっこう衝突があったらしいけどどうなんだろうか

9. あしたてんきになあれ

作曲は細野晴臣. 裏声がジワジワくる.

9曲目にして急に無感情な歌詞とメロディに風邪ひきそうになる. 時代背景的に戦争だったりオイルショック,光化学スモッグ,ハイジャック事件,あさま山荘事件とか 暗めの出来事が多かったからこういう雰囲気を書いているんだと思う.

さっきまで駆逐艦の浮んでた通りに
のっぴきならぬ虹がかかった

三番でやっと平和になる.よかったね

その虹で千羽鶴折った少女は
ふけもしない口笛 ひゅうひゅう

ふけもしない口笛をふいているらしい.かわいいね

松本にとっては少女は平和の象徴なのかと思った.

10. 颱風

作曲は大瀧詠一

大瀧と鈴木の掛け合いがすごく面白い.

しょっぱなのハーモニカとキックからして緊張感がある. 颱風が来る前の静かな感じを想起させる. そして

来る 来る

鈴木のギターとオルガンで颱風が来る.

どどどどどっどー

こことか宮沢賢治っぽいけどこれは歌詞も大瀧なんだよな.

さあ来い

また鈴木から颱風が起こる.

街はしーんと闇くなり

一気に静かになる.一つ颱風が去ったのか,台風の目なのか

基本的に大瀧が「颱風がくる」と鈴木を煽って,ギターソロを引き出そうとしている曲だと思う. ギターソロ前の大瀧がうれしそうなのがかわいい

11. 春らんまん

作曲は大瀧詠一.

バラードほどではないカントリー. マジで好きだ

向ふを行くのは お春じゃなゐか
薄情な眼つきで 知らぬ顔

主人公は「お春」を見つけたが知らん顔されている. お春との関係性が全く分からないから嫌われてるのか,元カレなのか,他人なのか,色々妄想できる. 個人的には片思いの一方的な顔見知りとかの方がこの年代っぽくて好きなのでそう思っていつも聴いてる.

沈丁花(じんちょうげ)を匂はせて

沈丁花は 2~4 月なので今は春. 花言葉は「永遠」「不死」だけど関係ないかな. ちなみに「沈丁花・香り」で調べると三大香木の言及がヒットする.へぇ~

おや、まあ ひとあめくるね

なにか起こりそうな感じがする.

はるさめもやふのお春じゃゐか
紺のぼかしの蛇の目傘に

春雨模様なので機嫌が悪そう. 「紺のぼかし」は二種類の紺色が交互に輪になって連なり,その境目がぼかしてある模様. 「蛇の目」は基本色(今回は紺色?)に白く太い円が広がる模様.

花梔子(はなくちなし)の雨がけぶる

花梔子は 6~7 月なので夏ごろ. 「雨がけぶる」なので霧雨とかだろうか.

おや、まあ これからあひびきかゐ

お春を見つけた主人公は「これから逢引きかい」と言うわけです. 主人公がお春を好きなのはほとんど確定だろうけど関係がやっぱりわからない.

婀娜(あだ)な黒髪 お春じゃなゐか
淡くれなゐに頬紅そめりゃあ
巴旦杏(はたんきょう)もいろなしさ

「婀娜」は色っぽい様子. お春が化粧したので巴旦杏すら色がなく見えるほど綺麗だね,という表現だと思います. 巴旦杏も花梔子も沈丁花も三大香木なので主人公はお春の香水のにおいをかげる位置にいるんだろうと思う. でも友達とかにしては距離が遠すぎるので例えばお春がよく来る店の店員さんとかなのかな,と妄想する.

おや、まあ 春らんまんだね

お春に春が来たんだろうか.よかったね

暖房装置の冬が往くと
冷房装置の夏が来た

季節の移り変わりがあって...

ほんに春は来やしなゐ
おや、まあ また待ちぼうけかゐ

もうお春は自分が働いてる店に来なくなってしまった. 待ちぼうけらしい. がんばれ主人公

向ふを行くのはお春じゃなゐか
薄情な眼つきで知らぬ顔

店の外を歩くお春を見たのか,それともただすれ違ったのか. お春はもう結婚しているので全く違う印象をうける.

この古語っぽい歌詞にこの曲を乗せられる大瀧すごいな

12. 愛飢を

作曲は大瀧詠一

日本語ロックの重要性というか日本語の深みを表現している,とかいうわけではなくて 単に「あいうえお」を羅列しているだけだと思います. それくらい日本語ロックは珍しいことじゃないよって言いたいんだと思っています. ただ遊んでるだけかもしれないけど

今更日本語ロック論争を焚き上げる人はいないと思うけど,当時このアルバムがどういう評価を受けていたのかは気になる. 個人的ランキングは

  1. 夏なんです
  2. 春らんまん
  3. 風をあつめて
  4. 花いちもんめ
  5. あしたてんきになあれ

です